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姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。
弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり。
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砂地に僅かに沸いたオアシスに移動する。
そこは池のように小さい水たまりで、水そのものは澄んでいたけれど、喉の渇きというものが無くなったこの島では、立ち寄る者も居ない。

けれど、私は池の中へと足を踏み入れた。ぬるくて気持ちの悪い水、いずれ近いうちに干上がる運命のそこに。
弟は私が水にいきなり入ったものだから少しびっくりしていたけど、休憩だと思ったのか、岸に座って武器の手入れを始めていた。

赤い水から声が聞こえるのだ。深みのあるバリトンボイスが。
赤い水の表面から光が見えるのだ。ゆらゆらとゆれる淡いひかり。
私にだけ見える声と光、そして水面の向こうの光景。

何処かの大きな部屋で、隻眼の大男が座っている。側にいるのは先日見た銀髪の女。
何かを相談しているのか分からないけど、こちらにまでその声は僅か聞こえていた。

『……レ…オン…………”感覚”は、…………は備わっ…………?』

『…………もらい……も ……』


間違いようがない、その声、その特異な外観。



「おっちゃん! ウチやっ! 聞こえてる?! なあ!
ウチや、シュレーデン=アルグリフ…… の、エイリアス……!」



自分でも徐々に声が小さくなったのが分かった。
何せ自分でも自分がどういうものなのかが分かっていないのだ。エイリアス、と口に出した所で言葉の指すものが不明瞭。故に小さくなる、助けを求める声。
じきに水面には何も映らなくなり、暫しして赤い天をまた反射させ始めた。



その隻眼の戦士は、昔―――40年以上も前に”森”で出会った。
正確には私と本体が分離していない頃の昔に。
ただの冒険者として、ただの知人として。
豪放磊落で冗談が好きで、けれどどこか繊細で。落ち着いた、人の痛みが分かる人だった。
やたらと私の作ったミートパイを気に入ってくれていたっけ。

何年か経って、その戦士は迷宮で、怪物に襲われて死んだ。
無惨に食い荒らされた遺体がサルベージされたと聞き、人の死に慣れていなかった当時は、涙が出なくなるくらいに激しく泣きじゃくったものだ。

だがその男の姿が、今この瞬間水面に映っている。声が聞こえる。
どういう理屈かは分からないが、これは過去の姿が映っているのだろうか。

なら……呼びかけても意味がないのではないか。

その男とは死ぬまで親交があったが、終ぞ本体であるシュレーデン=アルグリフのエイリアスの話などは耳にしなかった。
単に彼が話さなかっただけなのかもしれないが、どのみち助けを求めたところで全くの無意味だろう。

無言で岸辺に上がった私をシュガは不思議そうな顔をして見ていた。が、直ぐさま手を伸ばし、自分の方へと引き寄せてくる。温かいけれど、哀しくなるようなぬくもり。
弟の腕の中から赤い天を見上げると、真っ黒な海鳥が奇声を上げて遙か上空を飛んでいた。



とうとう涙まで流れなくなった。
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