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姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。
弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり。
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どこにあるとも知れない森の中に、ぽつりと存在する宿場『真鍮の鎖亭』。
新緑の季節である現在は酷い雨に見舞われており、雨水が屋根を叩く音がひっきりなしに聞こえていた。真夜中になる今、森の静寂も相まって、やけに水音が建物内に響き渡っていた。

普段は冒険者や商人の人いきれで賑わうここも、人も疎らなこの時間帯であれば、当然雇われた用心棒もすることがないので、隅のテーブルで突っ伏していた。周囲には酒瓶がごろごろと転がっている。

その突っ伏した用心棒、よく見れば頬をテーブルに乗せて寝息を立てていた。軽いイビキまでかいている。
酷い職務怠慢ではあったが、給仕も女将も何も言わない。今の所支障がないからだ。

用心棒はすり切れたコートに、長く赤い髪が目を引く男性だった。年は30を少し回った頃だが、もう少しばかり若く見える。
大小2本の刀がテーブルに立てかけてあるところを見るに、二刀流の剣士なのだろう。捲り上げた袖の下、右腕には不気味な大きい傷痕があったが、特に隠そうとはしていないようだった。

時折口から漏れる譫言のような呻きは、激しい雨音に掻き消され、眉根に寄った皺も、長い髪に隠されていた。
脂汗が顔を伝う。
明らかによくない夢に魘されているが、誰も気付く者はいない。

雨音が尚も屋根を叩き、柱時計の長針が半周した頃。
依然として治まることのない雨足の中、暫くして赤毛の男は、どうにか目を覚ました。


「う…………?」


頬をテーブルから引きはがし、額に流れていた脂汗を拭う。周囲を見回すと、いつも通りの酒場、いつも通りの人々。何も変わったことはない。
鈍く痛む頭を振ると、夢の残滓はみるみるうちに消えていった。


「夢……。夢、でええんやな……、多分。」


外見に似つかわしくないウェストスラングの呟きは、重く苦々しかった。
端から見ても、あまりにも酷い容貌だったのだろう。憔悴した顔を見たのか、給仕の娘が冷たい水をジョッキに汲んで差し出してくれた。
飲み過ぎじゃないですか?との一言も沿えて。


「おおきに。すまんなあ、酒にやられるほど弱いこたないんやけどなあ……。」


男は大人しくそれを受け取り、礼を言って半分ほど一気に飲み干した。意識がようやくはっきりして来たが、引っかかるような不安感は消えていない。

実際酒には強く、ワイン程度で潰れるほどではない。……はずなのだ。
一息付いて、ようやくしゃんと椅子に腰掛けた。意識は既にはっきりとはしていたが、夢の記憶は今だ消えない。


紅い大地の悪夢。
実姉が二人。
周囲は殺戮に溺れている。
両親を殺し、
火を放ち、
何者かを半殺しの目に遭わせた挙げ句に腕と左目を奪い、
片方の姉を犯した。
そして最愛の妻を斬首刑にした。

そんな最低の、今まで見た中で最低の悪夢。
見たのは初めてではない。
どういうわけか以前から何度か、忘れた頃にこの悪夢を見るのだ。
時も場所も、状況も選ばずに。
確か初めて見たのは、息子が産まれる数ヶ月ほど前からではないだろうか……?


男はジョッキの水面が揺らぐほどの大きな溜息をつき、髪に手を突っ込んでゴリゴリと掻いた。


「まったく、何でこうしょっちゅう……。疲れとるんか、何ぞ憑いとるんかいな?
なあ、お前はどない……」


ごく自然に、テーブルの対面に声をかける。無論、そこには誰も座っていない。しかし確かに自分は誰かに声をかけていたのだ。直ぐに我に返り、眉間を指で叩いた。


「いや、誰に声かけとんねん、俺。ほんまに大丈夫か。」


渋面を作り、先程見た悪夢を何の気無しに思い起こした。
誰か。
誰かがもう一人居たはずなのだ。
おそらく男性。年もそう違わない……気がする。
しかし思い出せない。

渋面を隠せず、荒々しくジョッキの水を飲み干した。雨のせいか、少し前に隻腕状態だった右腕が鈍く痛む。

乱暴にジョッキを置くと、給仕の娘が溜息をついて空のそれを取りに来た。
調子悪いなら奥さんのとこ帰った方がいいんじゃないですか。お子さん、もう一人産まれるんでしょ、と小言じみたことを言われる。

こいつは絶対将来亭主を尻に敷くと、経験から来る勘が訴えていたが、流石に口にはしなかった。それくらいの分別は残してくれる頭痛だった。
代わりに全く関係ないことが口から滑り出る。


「ああ、せや、子供! なんちゅうかアレや、二児の父てやつな。
名前は今度俺が考えてええっちゅうことでな、クルフェルト、ての考えたんや。
女の子やったらクルフェ、て呼べばええし、男やったら……―――」


全く関係ないこと、なのだろうか。
無理にバカな話をしているつもりだったが、自分の一挙一動が何か言い知れぬものを紡いでいるような、落ち着かない感覚が付きまとっている。
数年前に夫婦で滞在していたカルマート大陸、そこでの冒険。あの時の不可解な感覚に似ていた。

子供達に。
次の世代に、この不安が繋がれたりはしないだろうか。
俺の業が、未来の子供達に繋がったら―――

いや、よそう。
無意味な懸念はらしくない。
第一親の業などは、少なからずどこの家族でも繋がるものだ。
それを振り払えないほど、弱いわけがない。
自分と妻の子供が、そんなことでは困る。


雨は容赦なく新緑に降り注ぐ。
だが、新緑はそれを受け流し、糧にして、葉を広げるだろう。

雨が降っている。














































【PL】

アルグリフ姉弟・弟の話です。今書く内容かよって話ですが。
しかも予告もナシに書いたんで、きっと誰も気付かないと見た。気付く人が居ても、はてさてどのくらいかかるかしら(笑)。
追記:とか思っていたらツワモノが居たようです。なんという捕捉能力。侮れぬ……(ゴクリ)

まんがが遅れているので、期待してくださっている数少ない方の為に捻り出してみました。姉弟の話なのに、弟視点の内容があんましないなーと思いまして。


以下はとてもとても長いキャラクター語り。程よく脳内設定が炸裂しているので、閲覧の際には気をつけろ!











シュパーギン=アルグリフ、愛称シュガは、偽島アーヴィング=アルグリフ(656)のパパです。
アクア=エリアスのキャラクターの息子。つまりアーヴィン君は三代目。
割と二世キャラ作るぞ的なミーハー心で動かしていたのですが、意外に思い入れの深いキャラクターになりました。
年を追って色々な冒険地に出向いているようです。

堕島ではド外道かつ基地外ですが、本来はお調子者で時にストイック、偽悪者で人情家です。


■Final Crest時22才。
 重鎧に長剣装備のガチ物理、肉壁。超厭世的でとりつく島もない貧乏剣士。冒険中に密かに孤児達の面倒をみていたが、冬を越せずに全員凍死させてしまったという嫌な設定があります。
ロール面で周囲の方々に死ぬほど迷惑をかけました。大反省。


■EDEN's Shift時29才。
 一転して刀に戦闘服装備のサムライ系。どうにか立ち直って前衛剣士として活躍。偽島アリステア・A・ガルド(1156)さんの堕島PCと同PTだったりしました。
PMに惚れた女が出来たようです(リセット間近に結婚。ありがち)。


None-Million時30才。
 定期更新ネトゲ汎用PBC。ES引退一年後という設定で動かしていました。此処での冒険時、得体の知れない生物に精神攻撃を喰らい、狂気の掛け金を外されてしまいます。
 妻の腕に傷跡を残しつつ、バリトラ・エバースノア(830/偽島引退一年後という設定)氏の助力によって正気に戻っているのが本来の分岐、妻を斬り殺してしまっているのが堕島への分岐でした。

 余談ですがこの時、シュガは自らの右腕を砕くことによって妻を斬り殺さずに済んでいます。これは堕島でのクルツ氏の業を、糸一本で繋がっている記憶で引き受けたためと思われます。堕島の方が後付けなんですが、えらく上手く一致した符合です。
現在は完治し、怪我の功名で二刀流剣士となれました。

 更に余談ですが、この場所は時空と距離が無茶苦茶になっているので、年齢などの辻褄が派手に合わない場合も多発しています(そういうギャップも楽しみに入るのですが)。
 故にこの近辺での年齢調整の言い訳によく使われます(……)。


■DRAGON WARCRY時31才くらい。
 もう引退してしまいましたが、FLASH使用の一人用オンラインRPGはこいつで登録していました。嫁さんもいます。TCに来る前のセレナ(93)さんとかもいたり。
 システムリセットがあったのをきっかけに、DWC日記ではそれを次元分岐点と捉えて、同じ場所なのに少しずつ違った所にいる矛盾を書いていました。
 こう書くと明らかに堕島の後遺症ですが、DWC日記を書いていたのは堕島のずっと前だったので、物凄い偶然と後付けです。



こうして書き出して考えると、半分以上が偶然と後付けによって出来て居るんだなあと頭が痛く、もとい感心しますね。

ちなみにアーヴィン君が成人している現在、シュガは60近い老剣士。
フェリシア大陸の王都にほど近い場所で、牧場兼孤児院を営んでいます。偶に窓から抜け出して、奥さんに黙ってこっそり冒険に出てしまうそうです。最悪だ(笑)。
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10202008/05/05(Mon)01:46:45 REWRITE
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