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姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。
弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり。
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ごっそりと力が抜けていく。これが所謂『マナの消失』というものだろう。
聞いたわけではないが、感覚的に―――この島に来たときから直感で分かっていた。
敗者は勝者に生命力を吸い取られる、それがここでの唯一無比の絶対的な法則。

ここに来てからどのくらい経つのかはわからない。
だが、空腹を覚えることもなければ、新陳代謝も恐ろしく低い。
故に食事も排泄も水浴も必要としない。
汚れたら身体を洗うだけ。睡眠はただ疲れを取るだけ。
―――人としての生命サイクルすらも、この島では否定されるのだ。

マナが全て消失したら、私はどうなるのだろう。
戯曲の人魚姫のように、海の藻屑と消えるのだろうか。
例えが綺麗すぎることに、我ながら苦笑を漏らした。苦笑と共に涙まで出てきた。

シュガが寄りかかり眠っている樹のすぐ脇に、滾々と湧き出る泉があった。
服のまま、清水に浸かる。どういうわけかこの服は脱ぐことが出来ないのだ。
服や肌、髪に付いた汚れを落としながら、私は静かに泣いた。
常に離れようとしないシュガを起こさないように。


助けて。誰か、私達をここから出して。

……でも外部からの助けは見込めそうにない。
誰も私達を認識できていないのだから。
***だって、本体の私がいるのだから、気付くはずがない。
ましてや本体の私ですら。


様々な者たちが脳裏を掠めていったが、全て私に気付くはずがないと分かっていた。
涙が泉に落ち、波紋がひとつふたつと広がっていった。

……。
…………。

………………あれ。
何だろう。

波紋が広がり消えた後、鏡のような水面に三名の人影が映っていた。
水面が波打たぬよう、思わず引き込まれるように、その人影を凝視する。
三名とも、こちらには気付いていないようで、何事かの相談をしていた。

一人はかなりの体躯の青年だった。
端整な顔立ちはしかし鋭く、頬に傷がある。露出した腕にも無数に傷がある。荒事専門の冒険者―――いや、傭兵だろうか。

一人は色素の薄い髪の女だった。
一部の隙もなく着込まれた戦闘服に、何故か民族的な柄の布マフラーを巻いている。前述の男と雰囲気が酷似していた。

最後の一人には見覚えがあった。30代後半ほどに見える男だ。
先程の男と変わらぬ程の体躯にレザージャケット、背負っているのは白詰草の文様が入ったクレイモア。
そして―――隻眼。黒い眼帯に包まれた、隻眼。


―――……!!

隻眼の男の名を呼ぶ前に、動揺した私は泉の水面を揺らしてしまっていた。
途端に小波が幾つも出来、三人の人影は瞬く間に崩れ、消え失せた。


涙による波紋は、その後シュガが起きだしてからもなかなか無くなることはなく―――
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