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姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。
弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり。
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(開幕のベルが鳴る。しかしそれは子供達の期待を高めるようなものではなく、さりとて葬送曲のような乾いた陰気なものではなく)

(しゃりん、しゃりん、と鈴の音が鳴り響く。暗がりに赤いストライプの服を着た道化師の姿)

やあやあ皆様。反転した夢の世界、紅と紫の島へようこそおいで頂きました。
別にあたしがこの島を仕切っているわけじゃあございませんけどね。
あたしは道化。アルジャーノンていう、ケチなただの道化でございます。

(そう言うと道化師は踵を鳴らした。同時に鈴も音を立てる)

これから皆々様にお目にかけますのは、堕ちた島に辿り着いてしまったほんの一握り。
夢か現か幻か、その夜の一幕をお目にかけようという次第であります。

皆々様から見れば数ヶ月の出来事も、舞台の袖から見ればほんの一瞬。
一体どこから夢でどこから現なのか―――

それでは皆様、堕ちた島の堕ちた姉弟の行く末を、目をしっかとあけてご覧下さいませ。ひひひ。










ふと気がつくと、私はこの肌寒い丘にいた。
とてつもなく広い丘陵地帯だ。
空も赤い。
土も赤い。
空と土の境目も赤い。
轟々と吹き付ける風すらも赤く感じた。
遠くで獣の遠吠えのような音が聞こえた。

ざり。
足元は鉄分を多量に含んでいそうな土。
それを踏むのは、靴を履いていない、素足。
そう、私は靴を履いていなかった。
服は着ていた。シンプルな飾り気のないドレス。

―――?
ここは一体?
私は何だってこんな所に立っている?

まて、慌てるな。
思い出していこう、順番に。




私はシュレーデン=アルグリフ。シュリ。よし、名前は覚えている。記憶障害などではなさそうだ。
女性、23才。というか、23才の時から年を取らなくなった。本当は60を越している。

元は人間だが、今は人間ではない。

とある神秘の島で冒険者をやっていた頃に、禁断のリンゴを食べ、神と人の中間の存在―――半神となった。
理由が恋仲になったエルフの男と一緒にいるためというのだから、今考えるとどうかと思うのだが、後悔はしていない。
彼のためというのも勿論あるのだが、他にも色々と神気を帯びた者としての使命もできた。

「半分神となった女がこの世を渡り歩いている」などと言うと、三文芝居のようで自分で言っていて少し可笑しい。
とは言え、本当なのだから仕方ない。
それに、あのリンゴを食べた後から少しずつ、少しずつ湧き出してくる衝動―――衝動と言っていいのだろうか、奇怪な救済衝動は止むことがない。
魔王の鍵となって死んでいった男や、帰らぬ人となった大剣を使う隻眼の男、羽帽子の商人とその家族……
救済できた者や出来なかった者たち。半端者である私は、完全なるそれらと比べれば、見える範囲は余りにも狭い。
狭いが、だからこそ、濃く、見える。


半神となって40年近く経った今も、もちろんその前述した男と一緒にいる(子供もいる。もう数十年前に独り立ちさせたが)。
北方の小さな宿場町。移り住まざるを得ない私達の、現在の住処。半分神でも半分は人間、生活形態は殆ど人と大差ない。




思い出してきた。確か夕飯のパスタを茹でていたんだ。練炭の付きが悪くて少しイライラしながら。今日は遅くなると聞いて、少しがっかりしながら。
トングで鍋をかき混ぜながらぼうっと―――

ぼうっと……




―――していたら、いつの間にかこの丘に立っていた。
間の記憶が一切無い。
いつの間に着替えたのか、大昔の戦闘時に着用していた強い精霊力を纏った白銀色のドレスを纏っていた。
轟々と乾いた風が吹き付け、裾をバサバサと通り抜けていく。
自身を失いそうになる、呆然とするしかない、風景。

夢か。
夢ならば良い夢なのか、悪い夢なのか。
一体いつからこの夢を見て居るんだ。
どこからどこまでが夢なんだ。


幸いにしてと言おうか、立ちつくしている時間はそう長くはなかった。
丘陵地の向こうから、何者かが歩いてくるのが見えたからだ。

まず目に入ったのは、乱暴な風になびく長い髪だ。この天地と同じような、煤けた赤い髪。
ボロボロのロングコート。体格からすると成人男性だろう。
腰には長剣、腕には後生大事そうに何かを布にくるんで持っていた。
私に気付いているのかいないのか、夢遊病者の如き緩慢な足取りでこちらへとやって来る。

人斬りか。
物狂いか。
いずれにせよ、ただならぬ様相だ。
夢か現か分からないこの地に於いても、私の闘争本能は瞬時に覚醒した。
無意識が勝手に研ぎ澄まされた。
髪がざわりと波打つのが分かる。だが―――私の掌には、指先には、周囲には炎が宿らなかった。
ちりちりと熱くなる、が、ただそれだけ。

どうして?! 炎が言うことを聞かない!

人間で言えば手足が動かない程の衝撃や恐怖だ。
おまけに携えていた第六感や第七感、それ以上の感覚も全て消失していた。
残っているのは人間と殆ど変わらない程度の五感。

ざし。ざし。
白い手袋に包まれた掌を凝視している間、赤い男は赤い土を踏んで、こちらへと歩み寄ってきていた。
その距離、およそ10メートル。
手にはいつの間にか抜刀された、錆び付いた剣。その錆は決して金属的なものだけで生成されてはいないだろう。

死と遠いはずの私が、死を真正面に感じた。思考も停止し凍り付いた。恐怖―――
その男の半開きになった口から漏れる、余りにも意外な言葉がなければ、私はどうしていただろう。


「……お姉?」


確かにその男はそう呟いた。ウェストスラングの混じった、忘れられない懐かしい声で。


「シュガ?!」


その時の私はどういう顔をしていたのだろう。赤い地の果てで出会った、双子の弟。
大昔は同じ胎内に収まっていた片割れ。
シュパーギン=アルグリフ。シュガ。
どう見ても私より年上だが、れっきとした双子の弟だ。時系列が狂っている場所で会うこともあったので、これくらいは驚かない。

同じくして冒険者だ。昔色々あって気まずくなったこともあったものの、今は水に流して解決している。
長剣や東方の刀を使いこなす、身内が言うのも何だが、なかなかの腕の剣士だ。

へたり込みそうになる安心感がどっと湧き出てきて、実際にそうしそうになった。
対照的にシュガは余り動じていないようだった。何の感慨もなく冷静に、抜刀した長剣を元通りに鞘に戻す。
陽気でそそっかしい、そのくせ人と付き合うのが不器用な弟。あんまりな状況だったので、私も相当に心配していたのだけれど……

そう、彼にも理解者がいた。女性のシーフ。
気の強そうな、しかしどこか優しげなその人と弟は、ついこの間……おっと、大体彼がこの年齢くらいの時に結婚した。
何処か陰鬱としていたその頃のシュガは、一変して笑みを見せるようになっていた。子供のような、人なつっこい笑み。

……。
―――おかしい。
何で、そんな、顔をしているの?
どうして、死人のような動作なの?
違和感が高まってくる。

赤い土の上に座り込まなかったのは、シュガの剣を握っていない方の手に持たれた、何かの包みが気に掛かったからだった。

「……―――シュガ? それ……なに?」

口をついて出る私の声は、相当に掠れていた。
嫌な予感が胸をよぎる。否、荒れ狂う。

一抱えもある、瓜科の果実に似た大きさの、布にくるまれた何か。
布は特殊なものなのだろうか、ごく小さな緑色の珠が縫い込まれている。何らかの特殊な布。

「なぁ、それ…… なに?」

返事はなかった。
返事の代わりに、轟と乾いた熱風が吹き荒れた。

めくれた布の下は、微笑を浮かべ、眠っているような顔の女性だった。
薄紅色の髪が風に舞う。厳しさの中に優しさを湛えているような強さのある顔立ち。
綺麗。以前会ったときより綺麗になっていた。
でも。

その女性―――弟の妻、私の義妹の、首から下は、無かった。

赤く唸る海風が、私の絶叫をことごとく飲み込んでいった。






姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。

弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。

これは哀れな姉弟のものがたり。
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