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姉は全ての状況と殆どの能力を失い、地に落ちた。
弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり。
■  08/18  [PR]  ■
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(※書いてて思ったんですが、最終話をマンガにするのはちょっと無理なようでした。エピローグをマンガにしますということで、本文をどうぞ。)

【追記】
もうワンカット挿絵入れました(……)




島という監獄に、熱風が吹き抜けた。
不浄を灼く不可侵の炎。
焔の神属の先触れだった。

砂を灼き、三兄弟の前に現れたのは一人の女だった。一歩歩く度に、足元の砂が溶けてガラス質に変形していく。きらきらと輝く足跡は、瓦礫の向こうからここへと連なっていた。

赤い炎のような、というよりもむしろ焔そのもののような髪に、同じような瞳。
そして―――纏っているものこそ短衣に群青のマントと珍しくもない衣類だったが、シュエイと全く同じ姿形だった。否、シュエイがこの女と全く同じ外観なのだ。

エイリアス(分身)であるシュエイの、本体。
炎の半神。人間から後天的に神の眷属となった女、シュレーデン=アルグリフ。
一週間と少し前、異形の少女を神炎で浄化した者。
そして憎しみに身を委ねた兄弟の―――実の姉だ。

驚愕に目を見開くクルツ。
曖昧な相貌が鋭くなるが、しかしやはり驚愕を隠せないシュガ。

分身であるシュエイだけが全てを理解し、泣きながら微笑んでいた。
やっと、この狂気の島から連れだしてくれる、外部からの手が差し伸べられたのだ。
双眸から透明な涙が後から後からこぼれ、止まらない。砂に吸い込まれ、またその上から涙がこぼれていった。

半神は有無を言わさず、狂った弟の狂気のみを焼き尽くす。灼熱による絶叫。
もう一人の弟には、「本来」の世界のイメージを向ける。混乱による苦悶。
シュエイとは違う、強い意志、生命力、そして強い強い火霊の力を兼ね備えていた。





「さて、と。」

一区切り置いて、揺らぐ髪の半神は一同を見渡し、あえて肉声で呟いた。説明すべきことはしたという意思表示か、腕を組み、直立不動で。赤い瞳は鋭く弟二人を見つめていた。

説明自体は、恐ろしく短時間で片が付いた。半神の持つイメージを直接頭の中に伝えられたのだ。情報伝達に齟齬が発生しないのはもちろん、言語を介するより遙かに時間が短縮されている。
『心話』―――発信専門だが―――により、弟二人はどうにか事態を飲み込んだようだっ
た。

曰く、この世界は『本来の路』から分岐して出来た世界。終末に向かって破滅の路を行く世界。
曰く、通常であれば分岐が大量にあるのは至極普通のこと。だがこの『路』は、『本来の路』に酷く悪影響を及ぼす。
曰く、故に半神はこの『路』を抹消しに来た。余計な枝葉を剪定するように。

だが、強固なひとつの意思がそれをさせないでいた。故に直接ここまでやってきたのだと。
―――その強固な意志が、クルフェルト=アルグリフという魂なのだと。





■【SIDE:Shpaginn】

姉―――もう一人の強気な姉から伝えられる事実は、己(おれ)を驚愕させるに充分だった。
だがその言葉、まず真実だろう。この期に及んで虚偽に意味を持つとは思えないし、この狂気を灼いた得体の知れない、だが清冽な力は、疑う方が難しい。
何よりこの、頭の中に直接イメージを叩き込む異能の力。
そうか、この姉は『本来の路』とやらではもう、人間ではないのか。

クルツが砂地に膝を付け、苦悶に呻いていた。その『本来の路』とやらのイメージを見せられたのだろう。それでも脂汗を流しながらだが、どうにか平静を保っていた。
認めない、と唸りつつも無理矢理口の端を歪めて笑んでいたが、虚勢であることは明らかだった。

無理もない、とすら思えた。己の存在を根こそぎ否定されているも同然なのだ。
つまりはこの弟が邪魔と言うことなのか。故に消そうとして、異界の姉はやってきたのか。

しかも弟を斃さねば、己のマナが尽きたときに酷い影響を周囲に撒き散らして、『本来の路』の縁者諸共に、己が砕け散るらしい。

片方を生かすために、片方を消す。虚構とはいえ、血を分けた弟を。
そんな莫迦な話があってたまるか……!!



―――……天が轟々と唸りを上げている。紅い天空はにわかにかき曇り、遠雷の音が微かに聞こえる。
何時しかこの島の終わり、この世の終わりが来るような天候になっていた。


だが、異界の姉は暫く置いた後、クルツに尋ねた。静かに、しかし重い声で。
『全てを取り戻す為の手段が、条件付ではあるが存在するとしたらどうする?』と。





■【SIDE:Schleiden-Demigod】

私がここにやって来られたのは、本当に偶然だった。
何者かが私の血縁に繋がる反応をしたのだ。それが無ければ、エイリアスの存在にも気がつかなかっただろう。不甲斐ない。まだまだ私は半人前だ。

私の分身、エイリアス。自分と同一のそれは、弟達の声なき叫びと絶望を一身に受け、『本来の路』の私から自然発生した。どういうわけか『枝』へと移ってしまったのだが、それだけ絶望や乾きが大きかったのだろう。
罪と業を一身に背負わされる、贖罪の山羊として。しかしその役目はもう終わる。私の業は私が受ける。私の元に、彼女は戻る―――



この『路』を、私は剪定しようと思ってやって来た。だが、思ったより強固なここはそれを許さなかったのだ。何より、存在し得ない魂―――クルフェルト=アルグリフという魂が生まれてしまっている。もう剪定は不可能だ。

そこで私は提案を出した。ただひとつだけ、全てを取り戻す手段がある、と。
濁った血の涙ではなく、清冽な涙を、残った左目から滔々と流す弟に。
狂気が薄れ、昔に戻りたいと呻くように呟く、幻の弟に。



それは、『巻き戻し』。
植物を逆成長をさせて元に戻し、枝を元から発生しない状況にすること。
ぐちゃぐちゃになった糸が絡まり動きにくくなった糸車を元に戻し、再び紡ぎ直すこと。
相当な負担がかかり、凄まじい歪みと負担が来るだろう。完全に元に戻るとも言い難いが、やらないよりは絶対にいい。

シュガのここでの記憶は失われ、『本来の路』の修羅への分岐点へと戻る。そこで修羅から醒めなければもう打つ手はないが、シュガなら何とかするだろう。
義妹―――ラドネイだって、斬首されることはないはずだ。

魂が発生してしまったクルツを無かったことには出来ない。ただし、環境と記憶は失われるものの、魂だけを『本来の路』へと引き上げることは可能だ。
イススィールを這いずっていたころならいざ知らず、今の私ならば、出来る。



還ろう、みんなで。元の路へ帰ろう。
そこには両親もシュガの妻も私の家族もいる。クルツを受け入れてくれる場所だってある。
少し悪い夢を見ていただけなんだ。
還ろう。
もうすぐ悪い夢は終わるんだ―――!





■【SIDE:Schleiden-Alias】

狂気の島にて僅かの間を過ごした弟たちは、最初俄に受け入れがたい顔をしていたが、どうにか状況を受け入れていた。

今までやってきたことが全て無意味と知ったクルツは、ただ膝を付き呆然と涙を流していたが、それでもどうにか許諾したようではあった。
痛々しかった。
シュガを殺そうとしていたのに、散々陵辱された相手なのに、一度は私を斬った輩なのに、放っておけなかった。


気付いたら私は、クルツの頭を抱きかかえ涙を唇で拭っていた。
震えている唇をも拭っていた。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
憎かったと思う。苦しかったと思う。
もっと助けになれればよかった。
全身全霊全てを否定され、無い存在にされる彼を思えば、
彼のモノになるくらい何ということはなかったはずなのだ。

同じイレギュラー同士だからか、何も禁忌を感じなかった。
本来の私とシュガは、そんな私達を見ても、何も言わなかった。


私の役割は終わりだ。
私という存在も消える、というより、ひとつにもどる。
よかった。完全にとは言えないが、幸せな結末になる。

涙を拭う間も惜しく、そのまま私は本来の私へと手を伸ばした。
呼応するように、二つの掌が重なる。これで私は―――





■【SIDE:Schleiden-Demigod】

―――何も、起きなかった。
何も。私はそのまま、エイリアスもまたそのまま存在している。

何故?!?!
何故ひとつになれない?!
何故戻らない?!?!

自棄になって何度も何度も互いの掌を合わせる。
何の反応もない。

な……―――

呆然とする私とは対照的に、最初同じような顔をしていたエイリアスは


再び涙を零しながら困ったように笑んだ。
私ならあまりしない笑い方で。


「ああ、やっぱり。うん…… なんとなく予想はしてたんやけどね。」

私と全く同じ声が、全く意図していなかったことを告げた。
混乱を取り繕うように発せられる言葉は、しかしそれを更に増長させる。

「ほら…… この腕。それに、『私』もなんとなくわかるやろ。
ウチがここにいる間に、『私』とウチに差が出来てもうたんや、な。」

どす黒い魔を含んだ腕を、エイリアスは私に見せた。経緯は知らないが、魔を取り込んでしまったということだろうか。
精神的にも何某かの差違は感じる。環境と状況はここまで顕著に私達を引き裂いていた。
じゃあ、じゃあもう、ひとつには戻らない?!

エイリアスはこの島の業を、一身に全て受けるのか?!
巻き戻しのエネルギーや、縁者の救済、兄弟の業、夢魔の片腕、その他諸々の負担と厄災と業を全部背負って―――

この島に残るというのか?!
莫迦な、嫌だ、やめて―――


やめて―――!!!!!!!!!!!!


混乱する心をどうにか引き留める私。
呆然とするクルツ。
下を向いて唇を噛むシュガ。

それでもなお、エイリアスは優しく笑っていた。
贖罪の山羊の役目を本分だとでもいうように。
優しく。
赤く長い髪をなびかせて。








(しゃりん、しゃりん、と鈴の音が鳴り響く。再び暗がりに、赤いストライプの服を着た道化師の姿が現れる。)

やあやあ皆様。覚えてくれてました? 覚えててくれた貴方、今日はいいことありますよ?
そう、あたしはアルジャーノンていう、ケチな道化でございます。

(そう言うと道化師は踵を鳴らした。同時に鈴も音を立てる。少しくぐもった音。)

堕ちた島の堕ちた姉弟の行く末、しっかりとご覧頂けたでしょうか?。
皆々様から見れば数ヶ月の出来事も、舞台の袖から見ればほんの一瞬。
一体どこから夢でどこから現なのか――― 夢を見たのは誰でしょう?

(再び道化師の踵が鳴る。場面は変わる―――)




弟は気が触れ縁者を斬り伏せ、人の道から外れた。
もう一人の弟は兄への報復のため、復讐鬼と成り果てた。
だが、これらは巻き戻る。くるくると紡がれた糸は解け、再び紡ぎ直される。
くるくる、くるくる、と。
真の姉の手によって、本来の糸車へと。

どこからどこまで夢の中かも分からない、僅かな安寧の中、傷を舐め合い這い蹲る。
これは哀れな姉弟のものがたり―――だった。

糸が紡ぎ直されたとしても、傷痕は大きく抉れたまま。
けれど、抉れた跡は皆で修復すればいい。
完全には戻らないだろうけれど、もうこんな惨劇は生まれない。

回る回る、本来の糸車。少しいびつに、けれど健やかに。
全てを知るのは炎の半神ただ一人。




地に堕ちた半神のエイリアス、コピーの姉は、終ぞ紅い島から出ること叶わず。

罪と業、歪みを一身に背負い、それは野に放たれた贖罪の山羊。
全ての業がゆっくりゆっくり浄化されるまで、あと何年、何百年、何万年。
独り静かに島に居る、赤い髪をなびかせて白い衣を纏った、それは野に放たれた贖罪の山羊。

涙が枯れることはない―――……。


(閉幕のベルが鳴る。全てを飲み込んでいく豪奢な緞帳も降り始める。
道化の姿はなく、舞台上にはしわくちゃの服と、そこから這い出してくるネズミが一匹―――)



【※エピローグへ続く(近日執筆予定)】
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